先天性大動脈弁疾患とは?
先天性大動脈弁疾患は、生まれつき心臓の出口にある「大動脈弁(だいどうみゃくべん)」に異常がある病気です。大動脈弁は心臓から全身に血液を送り出す“扉”のような働きをしており、正常な場合は一方向にだけ血液が流れるように開閉しています。
しかし、弁がうまく開かない「大動脈弁狭窄(きょうさく)」や、弁がうまく閉まらず血液が逆流する「大動脈弁閉鎖不全」などの異常があると、心臓に大きな負担がかかり、息切れや疲れやすさ、発育の遅れ、重症の場合は命に関わることもあります。
このような場合には、薬による治療やバルーン拡張術などを行いますが、重症や進行した場合には外科手術が必要になります。ここでは、特に小児や若い患者さんで行われる代表的な3つの手術について説明します。
Konno手術
手術の目的と内容
Konno手術は、大動脈弁の部分がとても狭くなっている場合に、その狭い部分を大きく広げることを目的とした大きな外科手術です。
特に、生まれつき大動脈弁やその周辺(心室中隔、大動脈基部)が小さく、通常の弁置換術だけでは対応できないお子さんや若い患者さんに選択されます。
主な流れ
- 胸を開け、心臓を人工心肺装置につなぎ、心臓を一時的に止めて安全に手術します。
- 大動脈弁とその周辺の狭い部分を切り開き、心室中隔(一部心室の壁)も切開して拡大します。
- 拡大した部分にパッチ(人工材料や自分の組織)を縫い付けて通り道を広げます。
- 必要に応じて人工弁や生体弁を設置して弁の機能を補います。
Konno手術の特徴
- 極端に狭い大動脈弁や基部にも対応できる
- 成長期のお子さんにも適用できる
- 合併症や再手術のリスクもあるため、術後は定期的なフォローが必要
Ross手術
手術の目的と内容
Ross手術は、生まれつきの大動脈弁疾患で、人工弁を入れるには年齢が小さすぎる、または成長とともに弁を取り替えたくない場合などに選択される特殊な手術です。
この手術では、自分自身の「肺動脈弁(はいどうみゃくべん)」を大動脈弁の場所に移植し、もともと肺動脈弁があった場所には人工弁や生体弁を入れる“自家弁移植”という方法です。
主な流れ
- 心臓を一時的に止めて安全に手術します(人工心肺装置を使用)。
- 肺動脈弁を丁寧に取り出し、それを大動脈弁の位置に移動させて縫い付けます。
- 肺動脈弁を抜いたあとには人工弁や生体弁(主に牛や豚の弁など)を設置します。
Ross手術の特徴
- 自分の組織(自家弁)を使うため、成長に合わせて大きくなりやすい
- 長期間にわたり弁の機能が保たれやすい
- 感染や血栓のリスクが低い
- 肺動脈弁の場所に移植した弁は、将来的に交換や再治療が必要になることもある
Ozaki手術
手術の目的と内容
Ozaki手術は、比較的新しい手術方法で、主に自分自身の心膜(しんまく、心臓を包む膜)を使って大動脈弁の「弁」を新しく作り直す手術です。
人工弁や生体弁と比べて、アレルギーや拒絶反応の心配が少なく、弁の機能も自然に近い形で保てる利点があります。
主な流れ
- 心臓を一時的に止めて手術を行います。
- 傷んだ大動脈弁を切除します。
- 患者さん自身の心膜を取り出し、弁の形にカットして3枚の弁を作ります。
- 作った弁を心臓の大動脈弁の位置に縫い付けて、機能的な新しい弁を作ります。
Ozaki手術の特徴
- 自己組織を使用するため、拒絶反応や感染のリスクが少ない
- 血栓予防のための強い薬(ワーファリンなど)を長期間飲む必要が少ない
- 成長する子どもにも適用しやすい
- 術成績が良好で、再治療のタイミングを柔軟に選択できる
これらの手術の意義と今後のフォロー
- お子さんの体にできるだけ優しい方法を選び、将来にわたり元気に成長できることを目指す
- いずれの手術も、成長や時間の経過に応じて追加の治療や再手術が必要になる場合がある
- 術後は定期的な外来受診や心臓の検査がとても大切
- 担当医と一緒に、お子さん一人ひとりに最適な治療計画を作っていきます
ご家族へのメッセージ
先天性大動脈弁疾患は、早期発見と適切な治療で元気に成長できる時代になっています。
Konno手術、Ross手術、Ozaki手術はいずれも世界的に認められた治療法で、多くのお子さんがこれらの手術を乗り越え、日常生活に復帰しています。
ご家族の不安や疑問はどんなことでもご相談ください。私たち医療スタッフが、お子さんの命と未来を守るため、全力でサポートいたします。