完全大血管転位とは?
完全大血管転位は、生まれつきの心臓の病気(先天性心疾患)の一つで、心臓から出ていく2本の大きな血管――大動脈と肺動脈――のつながりが“逆”になっている状態です。
正常な心臓では、肺で酸素を受け取った血液が左心室から大動脈を通って全身へ送られ、体の中で使われて酸素が少なくなった血液は右心室から肺動脈を通って再び肺へ戻されます。
しかし、完全大血管転位ではこのルートが入れ替わっているため、酸素の少ない血液が全身へ、酸素の多い血液が肺へと循環してしまい、効率よく酸素を体に届けることができなくなります。
このため、生まれた直後からチアノーゼ(皮膚や唇が青紫になる)や呼吸の異常などの症状が現れ、早期に治療が必要になります。
Jatene手術とは?
Jatene(ジャテン)手術は、完全大血管転位に対する根治的な外科治療で、現在では世界中で最も標準的に行われている手術です。
この手術の目的は、“逆”になっている大動脈と肺動脈を“正しい位置”に戻し、さらに心臓の血管の中でも特に重要な冠動脈を新しい大動脈に移し替えることです。
この手術は、生後間もない時期(通常は生後2~3週間以内)に行われることが多く、赤ちゃんの体が小さくても安全に手術が行えるように、技術的に非常に高度で繊細な手技が求められます。
手術の目的
- 大動脈と肺動脈を正しい位置に入れ替え、本来の血液の流れ(肺→左心室→大動脈→全身)に戻す
- 冠動脈(心臓の筋肉に血液を送る重要な血管)を丁寧に移し替え、左心室がしっかり機能するようにする
- 将来の追加手術や重い合併症のリスクを最小限に抑える
手術の流れ
- 事前の全身評価と準備
心エコー(超音波検査)、心臓カテーテル検査、血液検査などで心臓の構造や全身の状態を確認します。場合によっては、肺と全身の血液の混ざりを良くするために、一時的な処置(心房中隔裂開術など)を行うこともあります。 - 人工心肺装置の導入と心停止下の手術開始
安全に手術を行うために人工心肺装置を使用し、心臓を一時的に止めて手術を行います。 - 大動脈と肺動脈の入れ替え
心臓から出ている大動脈と肺動脈を切り離し、それぞれを“正しい位置”に縫い直します。 - 冠動脈の移植
心臓の筋肉に血液を送る冠動脈は、大動脈の一部に付いているため、慎重に切り取って新しい大動脈の壁に移植します。これはJatene手術の中でも最も難易度の高い工程であり、心臓外科医の熟練した技術が求められます。 - 心室中隔欠損やその他の異常の修復(必要に応じて)
完全大血管転位には、心室中隔欠損症(しんしつちゅうかくけっそんしょう)など他の心臓の異常を伴うこともあり、それらも一緒に修復します。 - 心臓の再起動と治療終了
手術を終えたら心臓を再び動かし、全身の状態を安定させながら人工心肺から離脱し、手術を終了します。
手術後の経過
手術後は、新生児集中治療室(NICU)で呼吸や血圧、心臓の動きを綿密に管理します。人工呼吸器や点滴などのサポートを受けながら、赤ちゃんの体力回復を待ちます。状態が安定すればミルクを始め、少しずつ体重増加と発育を目指していきます。
術後の経過が良好であれば、生後1か月ほどで退院できることもあります。退院後も定期的に心エコーなどの検査を行い、心臓の機能や冠動脈の状態を長期的に見守ります。
Jatene手術の意義と長所
- 生理的に自然な血流(肺→左心室→大動脈→全身)に戻す、根治的治療
- 術後の生活の質が高く、多くのお子さんが運動や学業などをほぼ制限なく行える
- 冠動脈移植も含めた高度な手術であるが、長年の経験により安全性は高い
- 将来的な心不全や合併症のリスクを最小限に抑えることができる
術後の生活とフォローアップ
Jatene手術後の経過は一般的に良好で、多くのお子さんが成長に伴い元気に日常生活を送っています。
ただし、冠動脈や大動脈のつなぎ目の狭窄、不整脈、心機能低下といった合併症がまれに起こる可能性があるため、長期的な心臓専門医によるフォローアップがとても大切です。
成長とともに、運動や学習などの活動にも参加できるお子さんがほとんどですが、年齢ごとに必要な検査を受けながら、安全に過ごせるよう見守っていきます。
ご家族へのメッセージ
Jatene手術は、生まれたばかりの赤ちゃんにとって非常に大きな手術ではありますが、完全大血管転位に対する根本的な治療法として確立されており、世界中で数多くの成功例があります。
手術に向けてご不安なことも多いと思いますが、私たち医療チームは、お子さんの命と未来を守るため、心を込めて治療にあたります。
どんな小さなことでも、ご不明点があればいつでもご相談ください。ご家族とともに、赤ちゃんの健やかな成長を見守ってまいります。