単心室とは?
単心室(たんしんしつ)は、赤ちゃんが生まれつき心臓の「心室」と呼ばれる部屋が1つしか十分に発達していない、または1つしか機能していない重い先天性心疾患です。
本来、心臓は右心室と左心室の2つで成り立ち、右心室は肺に、左心室は全身に血液を送ります。しかし単心室の赤ちゃんは、2つの心室のどちらかが小さすぎて使えず、1つの心室だけですべての血液を送り出さなければならないため、心臓に大きな負担がかかり、そのままでは命を保つことができません。
治療の全体像
単心室に対する治療は、「1つの心室だけで全身に酸素を届ける」ために心臓と血液の流れを段階的な手術で作り変えていく、非常に高度な専門的治療です。
その中心となる手術がGlenn手術とFontan手術で、一般的に3回の段階的な手術で心臓の働きを補います。
- 新生児期:Norwood手術やシャント手術(必要な場合)
- 幼児期:Glenn手術
- 幼児〜学童期:Fontan手術
ここでは、2段階目・3段階目の「Glenn手術」と「Fontan手術」について詳しく説明します。
Glenn(グレン)手術
手術の目的
Glenn手術は、心臓への負担を減らし、全身により多くの酸素を届けるために行う2段階目の手術です。生後4か月〜1歳ごろ、体重や体調が整ったタイミングで実施されることが多いです。
手術の内容
この手術では、上半身から戻ってくる静脈の血液(上大静脈)を直接肺動脈につなげることで、血液が心臓を通らずにそのまま肺に流れる「新しい血流の道」を作ります。これによって、1つしかない心室の負担を大きく減らし、体に送る血液により多くの酸素が含まれるようになります。
主な流れ
- 胸を開いて、上大静脈と肺動脈をつなぎます
- 手術中は人工心肺を使うことが多いです
- 術後は集中治療室(ICU)でしっかりと管理します
術後の経過
Glenn手術の後は、血液中の酸素の量が増え、心臓の負担も軽くなります。経過が安定すれば、数週間で退院できることも多いです。退院後も定期的な通院や検査が必要です。
Fontan(フォンタン)手術
手術の目的
Fontan手術は、単心室の治療の集大成となる3段階目の手術で、幼児〜学童期(3〜6歳ごろ)に行われることが多いです。この手術の目的は、下半身から戻ってくる血液も含めて、体のすべての静脈血が心臓を通らずに肺へ直接流れるようにし、体全体に酸素が行き渡る仕組みを完成させることです。
手術の内容
Fontan手術では、下半身から心臓に戻ってくる静脈(下大静脈)を人工血管や自分の組織で作った通り道(トンネル)を通して、肺動脈に直接つなぎます。これで、全身からの静脈血がすべて肺に送り込まれる新しい循環路が完成します。
主な流れ
- 胸を開き、下大静脈と肺動脈の間に人工血管などで新しい通路を作ります
- 人工心肺を使って安全に手術を進めます
- 必要に応じて「フォンタン窓」と呼ばれる小さな穴を作り、一時的に圧力のバランスを調整することもあります
- 術後は集中治療室で丁寧な管理を行います
術後の経過
Fontan手術が成功すると、1つしかない心室が全身への血液を送り、体全体が十分な酸素を受け取れるようになります。多くのお子さんは、退院後、日常生活や学校生活に復帰できますが、定期的な外来通院と心臓の検査が生涯にわたって必要です。
Glenn・Fontan手術の意義と注意点
- 心臓の負担を減らし、体の酸素不足を改善する
- 多くのお子さんが、日常生活や学業、遊びなどに復帰できます
- ただし、術後も一生涯にわたって心臓のフォローが必要です
- 成長や体調、心臓・血管の状態によって追加治療や入院が必要になる場合もあります
- フォンタン循環では、肝臓や腎臓、血栓、タンパク漏出症など、長期的な合併症にも注意が必要です
ご家族へのメッセージ
単心室に対するGlenn手術とFontan手術は、世界中で確立された標準的な治療法です。
難易度の高い手術ですが、経験豊富な専門医チームが一丸となってお子さんの健康と成長を支えます。術後もご家族と一緒に、日々の生活・成長を見守りながら、長期にわたるサポートを続けていきます。
不安なこと、疑問があれば、いつでもご相談ください。ご家族の皆さまが安心して過ごせるよう、全力でサポートいたします。