先天性心疾患と姑息手術の意義
生まれつき心臓や大きな血管の構造に異常がある「先天性心疾患」には、すぐに根本的な治療(根治手術)ができない場合や、赤ちゃんの体が小さいために段階的に手術を進める必要がある場合があります。
そのような時、赤ちゃんが成長し本格的な手術を受けられるまで「一時的に命を守る」ための処置として行われるのが姑息手術です。その代表がBlalock-Taussig手術と肺動脈絞扼術です。
Blalock-Taussig(ブラロック・トーシグ)手術
手術の目的
Blalock-Taussig手術(略してBTシャント)は、「肺動脈へ流れる血液が足りず、全身の酸素が不足してしまう」タイプの心臓病(例:ファロー四徴症、肺動脈閉鎖症など)で行われます。
赤ちゃんが十分に成長するまで、全身に必要な酸素を届けられるように、肺へ流れる血液を増やすことがこの手術の目的です。
手術の内容
この手術では、体の中の「腕の動脈(鎖骨下動脈)」と「肺動脈」とを人工血管でつなぎます。これにより、心臓からだけでなく腕からの血液も肺に流れる新しいルートを作り出し、肺に流れる血液量を増やします。
手術は一般的に胸を開いて行い、赤ちゃんの体に合わせたサイズの人工血管を使って接続します。
主な流れ
- 胸の脇を切開し、鎖骨下動脈と肺動脈を見つける
- 両者を人工血管でつなぐ
- 術後は創部を閉じて終了
BTシャントの特徴・ポイント
- 体重や年齢が小さくても実施できる
- 赤ちゃんの成長や本格的な根治手術ができるまでの「つなぎ」として有効
- 状態が安定すれば、数週間〜数か月後に根治手術へ移行することが多い
- 成長とともに血流が過剰になるリスクや、血管が詰まるリスクもあり、定期的なフォローが重要
肺動脈絞扼術(はいどうみゃくこうやくじゅつ)
手術の目的
肺動脈絞扼術は、「肺動脈に流れる血液が多すぎて、肺や心臓に負担がかかる」タイプの心臓病(例:心室中隔欠損症、大血管転位、単心室など)で行われます。
特に赤ちゃんや乳児は体が小さいため、肺への血流をコントロールして、肺や心臓のダメージを防ぐことが目的です。
手術の内容
肺動脈絞扼術では、肺動脈の一部に特殊なテープやバンドを巻きつけて、血管の内径を“しぼる”ことで、肺へ流れる血液の量を調整します。血流を適度に制限することで、肺への負担や心不全のリスクを下げます。
主な流れ
- 胸を開け、肺動脈の太さや流れる血液量を測定
- 肺動脈の周囲にバンドを巻きつけて、適切な太さになるまで調整
- バンドの固定後、胸を閉じて手術終了
肺動脈絞扼術の特徴・ポイント
- 成長や体重増加に合わせてバンドの締め具合を調整できる
- 必要に応じてバンドを緩めたり、根治手術の際にバンドを外したりできる
- 肺や心臓へのダメージを最小限にとどめられる
- 長期間のバンド留置による血管への影響にも注意が必要
これらの手術の意義
- 赤ちゃんの体が小さくても安全に行える
- 本格的な根治手術への「橋渡し」として命を守るために重要
- 状況が安定すれば、次の根治手術やカテーテル治療につなげることができる
- いずれも術後は集中治療室でしっかりと経過観察し、定期的なフォローアップが必要
ご家族へのメッセージ
Blalock-Taussig手術や肺動脈絞扼術は、お子さんが成長し、体が十分に大きくなるまでの間、安全に命を守るために行う大切な手術です。
手術のタイミングや内容はお子さんの心臓や全身の状態によって異なりますが、経験豊かな医療チームが一丸となって最適な治療を選択し、サポートいたします。
ご家族の不安や疑問にはいつでもお答えしますので、遠慮なくご相談ください。お子さんの健やかな成長を、医療スタッフとご家族みんなで見守っていきます。