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小児用医療機器開発を推進する環境整備に関する研究(AMED 藤井班)

研究目的
本研究は、小児用医療機器開発を推進する学会側の環境整備として、既存の悉皆性が高い小児用医療機器治療レジストリ(JCIC-Registry)を基盤として複数の小児用医療機器を安価に薬事利用可能な体制を整備・運用することを主な目的としてきた。産官学の緊密な連携の下、高品質な臨床情報を市販前後にかけて取得可能な基盤的レジストリを構築し、小児用医療機器開発環境の改善を通じて当該課題の解決を図るものである。本研究は4つの分担研究課題から構成され実施されている。

研究代表者
藤井隆成 昭和医科大学

分担研究者
犬塚 亮 東京大学
小林 徹 自治医科大学
松井彦郎 榊原記念病院
金 成海 静岡県立こども病院
喜瀬広亮 昭和医科大学
藤本一途 国立循環器病研究センター
隈丸 拓 東京大学

 

【これまでの主要成果】

分担研究課題1:薬事目的に利活用可能な基盤的レジストリ運用体制構築
小児用医療機器の製造販売後データベース調査の効率化に向けた基盤整備において顕著な成果を上げた。製造販売後調査(PMS)のMinimum datasetを構築する手法を開発し、CPステントを例として適用した結果、治験時の856項目から有効性・安全性に関わる103項目に絞り込み、約90%の項目削減を実現した。この取り組みにより、希少疾病である先天性心疾患領域における小児用医療機器開発において、評価項目を医療機器の安全性管理が担保される中で最小化する体制を確立した。
データマネジメント業務の効率化では、過去にPMSを実施したPiccolo occluderのクエリ分析により、126件のクエリのうち真に必要だったのは22%のみであることを明らかにした。この知見に基づき、PMDAとの協議を通じて、未測定と未入力を区別できる入力システムの重要性を確認し、データ品質向上と業務効率化の両立を図った。
PMS用EDC構築時のバリデーション簡素化として、学会レジストリ(JCIC-R)の延長線上にPMSシステムを構築する方式を提案し、追加項目のみにバリデーションを適用することでEDC開発コストを約半減できる可能性を示した。PMDAからは、バリデーションの実施状況が分かるデータを提出すれば問題ないとの見解を得ており、実用化に向けた道筋が明確になった。
さらに、標準業務手順書(SOP)のひな形として、NCDにおけるJCIC-Rを用いた市販後調査のための標準作業手順書リストを作成し、CROへの委託に関する業務手順書も完成させた。これにより、製造販売後データベース調査の運用に必要な詳細な手順が規定され、小児用医療機器の開発や承認においてコスト削減と運用効率化を可能にする基盤が確立された。

分担研究課題2:小児循環器関連共通評価項目の策定
肺動脈狭窄(PAS)の診断基準、分類、治療効果判定基準などの標準定義確立を目的とした国際的なAcademic Research Consortium(PAS-ARC)の枠組みによる共同研究を推進した。血管内ステント留置がPAS治療のゴールドスタンダードとなっているが、標準化された事象定義の欠如が臨床試験実施や治療法開発の障壁となっていることから、この課題解決に取り組んだ。
日米のアカデミアによる文献レビューと合意形成プロセスを通じて、PASの病因および発生機序の分類、肺および肺動脈の発達と至適介入時期、PASの解剖学的位置による分類、病変形態による分類、評価指標の定義と適用について体系的な検討を行った。特に、先天性心疾患の文脈におけるPASの解剖学的・機能的評価において、病変カテゴリーに応じた適切な評価指標の選択の重要性を明らかにした。
片側性狭窄では圧力勾配が血流の再分配により過小評価される可能性があり、解剖学的測定や肺血流分布評価がより重要である点など、臨床的に重要な知見を整理した。また、近年の研究でシステム圧の50%を超える右室圧が早期術後死亡率と関連することが報告されており、治療目標の設定においても具体的な指標を提示した。これらの成果は、より効果的な治療法の開発と新しいデバイス導入時の規制承認プロセスの促進に貢献することが期待される。

分担研究課題3:JCIC-Registryにおける品質管理体制の強化
小児循環器領域における新規導入医療機器の施設基準・術者基準の要件整備に取り組んだ。これまで明文化された共通のフォーマットが存在しなかった分野において、令和5年度の小児用カテーテル治療デバイスの検証結果を基に、海外報告における安全性と医療機器の新規性を軸に新規医療機器のグループ分けを実施した。
各グループに課せられるべき施設基準・術者基準要件の基本的な考え方に加え、プロクタリングが必要な医療機器とheart team conferenceが必要な医療機器の基本的考え方をPMDAの助言の下で整理した。この取り組みにより、医療機器開発における品質管理において、QMS省令で定められた施設基準に加えて手技実施者に対する教育や認定の体系的な枠組みが確立された。

分担研究課題4:リアルワールドデータに基づく小児用医療機器の開発推進
JCIC-Registry登録情報を利用した小児用血管内治療機器適応外使用の実態解明に向けた研究基盤を整備した。2016年から2021年の6年間にJCIC-Registryに登録された全非アブレーション治療を4つのカテゴリー(保険適用あり、適応外機器使用、保険適用外治療手技実施、適応外機器を使用した保険適用外治療手技実施)に分類し、保険診療外請求の経済状況を明らかにする解析方針を確立した。これらの取り組みにより、小児・先天性心疾患領域のカテーテル治療における適応外使用の実態解明、未発掘の臨床ニーズの発掘と具体的な新規小児用医療機器開発の促進に向けた基盤が整備された。

 

【今後の展望と来年度以降の取り組み】

これまでの研究から明らかになった深刻な課題
本研究の進展により、小児用医療機器開発を阻害する3つの深刻な課題が明らかになった。第一に、海外では標準的に使用されているにもかかわらず日本では使用できない小児用医療機器が多数存在する「新規開発の困難さ」である。第二に、従来適応外使用により小児治療を支えてきた医療機器が規制強化により使用困難となった「適応外使用の常態化」問題である。第三に、市場規模の小ささと長期承認プロセスによる不採算性から「キーデバイスの販売中止」が相次いでいる状況である。特に深刻な事例として、先天性心疾患用ステント治療において、2023年のPalmazステント販売中止により、日本国内で承認された大血管用ステントが存在しない状況が発生した。

これらの課題が生じる要因
これらの課題の根本原因として2つの構造的問題が推察される。第一に、薬事承認に係る直接費用は減免されるものの、それ以外の間接費用も含めると企業の費用負担と回収金額の差が大きすぎるため企業が承認申請を行わない承認システムの問題である。第二に、臨床研究法による規制強化とMDRへの移行による規制の厳格化に伴い、従来のように柔軟に適応外使用できる環境が失われた保険行政の問題である。

想定される対策案
これらの課題に対する短期的対策として、2つの方向性を想定する。第一に、薬事承認に係る間接費用を含めたコスト削減策の導入である。具体的には、小児用医療機器に関してFDA承認やCEマーク取得を本邦で受け入れる海外規制当局との相互承認制度の導入、小児用医療機器に特化した迅速審査制度の創設、リアルワールドデータを活用した適応拡大に関する規制緩和などである。第二に、臨床での使用実態を踏まえて薬事承認未取得であっても健康保険で査定されない仕組みの医療機器への拡大である。昭和55年通知の医療機器への適用拡大、保険外併用療養の活用、小児医療機器の保険償還価格の見直し、新規デバイスの原価計算方法の見直し、小児医療機器加算制度の創設の可能性を検討する。また、緊急性の高い事例に対して、海外では、人道的特別導入制度の創設、限定施設での特別使用許可制度の確立、政府による輸入・販売支援制度の構築、小児用医療機器開発に対する包括的インセンティブ制度の導入を検討することなどが行われている。
より根本的な解決策として、諸外国の事例を参考とした法制度整備の必要性が挙げられる。米国のPediatric Medical Device Safety and Improvement Act(2007年)、台湾のMedical Device Act Article35による特別優遇措置(2021年)、豪州のTherapeutic Goods(Medical Devices)Regulations(2024年)等、各国が小児用医療機器開発促進のための包括的法律整備を進めている。日本においても、成育基本法に基づく小児用医療機器開発推進に係る法律の制定と、法律に基づく小児用医療機器開発体制の整備が急務である。

令和8年度以降の研究計画
これらの政策提言を実現するため、令和8年度以降、政策提言の実現を見据えて、小児用医療機器開発促進のための制度改革を推進するための基礎的な情報収集を行うことを計画している。具体的には、本邦における小児カテーテル治療における認可外治療の実態調査、使用可能な小児用医療機器と規制制度の国際比較、販売中止になった医療機器の実態調査とその要因や患者への影響の解析を行う。最終的には厚生労働省、PMDA、関連学会との継続的な協議を通じて、小児医療機器開発コンソーシアムや、開発から償還価格設定までの一貫した小児医療機器支援システムの創設などの制度実現に必要な情報整理を行いたいと考えている。

 

AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業
「日本先天性心疾患インターベンション学会レジストリー(JCIC-Registry)を基盤とした小児用医療機器開発推進のための薬事利用可能なレジストリ運用体制の確立とリモート型監査システムの実装研究(AMED 藤本班)」
令和8年度、AMED 藤井班から引き続いて、小児循環器領域における医療機器開発の遅延解消を目指し、JCICレジストリを基盤とした薬事利用可能な製造販売後調査体制の確立を目的として研究を行う。具体的には、①Minimum datasetの実証・確定(収集項目・頻度の最小化)、②レジストリ利用標準パッケージの整備(企業・学会・医療機関間の標準手順書・契約書雛形)、③リモート型監査システムの標準化・有効性検証の3課題を、先行するAMED藤井班研究の実証フェーズとして実施することを目指している。

 

【学会発表内容】
藤井隆成 「小児用医療機器開発を推進する環境整備」
第59回日本小児循環器学会総会・学術集会, 横浜, 2023年7月6日~8日

藤井隆成 「AMED基盤的研究によるステント開発の取り組み」
第34回 日本先天性心疾患インターベンション学会, 愛知, 2024年1月25日‐27日

藤井隆成 「日米産官学共同の先天性心疾患用ステント導入〜 PAS-ARCの取り組み 〜」
第60回日本小児循環器学会総会・学術集会, 福岡, 2024年7月11日~13日

Takanari Fujii. Update on PAS-ARC Efforts.
Cardiovascular Research Technologies 2025, Washington DC, USA, March 9-12, 2024

Takanari Fujii. Update on PAS-ARC Efforts.
The 36th Annual Transcatheter Cardiovascular Therapeutics, Washington DC, USA, Oct 25-28, 2024

藤井隆成 「臨床現場はまったなし 先天性心疾患治療におけるデバイスロス」
第27回 日本成人先天性心疾患学会総会・学術集会, 神戸, 2026年1月9日‐10日

藤井隆成 「小児カテーテル治療の「現実」:現場医師が直面するデバイス問題」
第36回 日本先天性心疾患インターベンション学会, 川崎市, 2026年1月22日‐24日

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