小児の心室頻拍について
―お子さまの「心臓がとても速く打つ不整脈」の解説―
1. 心室頻拍とは
心室頻拍(しんしつひんぱく、Ventricular Tachycardia:VT)は、心臓の下側にある「心室」という部屋から、異常に速いリズムの電気信号が出ることで、心臓がとても速く打つ状態になる不整脈の一つです。
通常、子どもの心臓は安静時で1分間に70~130回程度拍動しますが、心室頻拍が発生すると、1分間に150回以上のとても速いリズムが連続して出現します。
2. どんな病気?なぜ起こるの?
心臓には「ペースメーカー」と呼ばれる場所があり、そこから規則正しく電気信号が出て心臓全体が一定のリズムで動きます。
しかし心室頻拍では、心室の壁の中の異常な場所から勝手に電気信号が出てしまい、本来のリズムとは無関係に「速い心拍」が続いてしまいます。
□ 原因
心室頻拍の原因は様々ですが、小児の場合は次のようなものが挙げられます。
- 生まれつき心臓に異常がある(先天性心疾患)
- 心筋症や心筋炎(心臓の筋肉の病気や炎症)
- 手術後の瘢痕(心臓の手術を受けたあとのキズの部分)
- 電解質異常(血液中のミネラルの異常)や薬の影響
- まれに、心臓に特に目立った異常がなくても発生することがある(特発性)
ほとんどの場合、ご両親の生活や育児に原因はなく、偶然に発生します。
3. どんな症状が出るの?
心室頻拍の症状は、発作の持続時間や心臓の健康状態、子どもの年齢によって大きく異なります。
□ 代表的な症状
- 動悸(ドキドキ、バクバクと感じる)
- 胸の不快感や圧迫感
- 息苦しさ、呼吸が速い
- めまい、ふらつき
- 顔色が青白い、または青紫になる(チアノーゼ)
- ぐったりする、けいれんする、意識を失う(失神)
- 乳児の場合、ミルクの飲みが悪い、泣き止まない、顔色が悪い
心室頻拍は「心室」という全身に血液を送り出す場所がとても速く動きすぎて、十分に血液が送り出せなくなり、脳や体の臓器に酸素が届かなくなることがあります。
そのため、症状が重い場合は命に関わることもあります。
4. どうやって診断するの?
多くの場合、発作が起きているときに心電図検査をすることで診断が確定します。
□ 主な診断方法
- 心電図(ECG)
発作時に特徴的な「幅広いQRS波」という波形がみられます。安静時は異常がみられないこともあります。 - ホルター心電図(24時間心電図)
小さな機械を体につけて普段通り生活しながら、1日中の心電図を記録します。 - イベントレコーダー
動悸などの症状が起きた時だけ自分でボタンを押して記録できる機械を使うこともあります。 - 心エコー(心臓超音波検査)
心臓の形や動き、他の病気が隠れていないかを調べます。 - 血液検査、胸部レントゲン、必要に応じてMRIやCT
他の臓器や血液の状態も含めて調べることがあります。
5. 心室頻拍が起きた時の家庭での対応
□ 症状が軽い場合
- まずは安静にして様子を見ます。
- 動悸が数秒~数分で自然に止まる場合は慌てる必要はありません。
□ 症状が重い・ぐったりしている場合
- 意識がもうろうとしている、けいれん、顔色が真っ青などの重い症状があるときはすぐに救急車を呼んでください。
- 無理に歩かせたり、無理に食べ物や水を与えたりしないでください。
- 発作が続く場合や、普段と明らかに様子が違う場合は早めに医療機関を受診しましょう。
6. 病院での治療
心室頻拍は、症状の重さや発作の頻度、子どもの全身状態によって治療内容が大きく異なります。
□ 急性期(発作時)の治療
- バルサルバ法や氷刺激などの自宅でできる迷走神経刺激は基本的に効果がありません
- 薬物治療
発作が止まらない場合、抗不整脈薬(リドカインやアミオダロンなど)の点滴を行う - 電気的除細動(カルディオバージョン)
意識がなくなったり、重い症状がある場合は、軽い電気ショックで心拍を正常に戻す処置が行われます
□ 長期的な治療・再発予防
- 抗不整脈薬の内服
発作の再発予防や頻度を減らすために使います - カテーテルアブレーション(カテーテル治療)
発作が繰り返し起こる場合、太ももの血管から細い管(カテーテル)を心臓まで進め、異常な電気の通り道を焼き切る治療 - ペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)
心臓が停止したり、重度の心室頻拍を繰り返す場合、心臓に電気刺激を与える機械を植え込むことがあります - 基礎疾患(心筋症や心筋炎など)がある場合は、その治療も合わせて行います
7. 日常生活で気をつけること
心室頻拍の既往があるお子さんでは、以下の点に注意が必要です。
- 定期的な通院と検査
治療後も定期的な心電図や心エコーで経過を見ます - 激しい運動や過度なストレスは避ける
- 運動や体育、部活動の参加は必ず主治医と相談
- 疲労や睡眠不足、脱水を避ける
- 熱が出た時や体調不良時には無理せず休養をとる
- 家族も発作時の対応方法や、救急車の呼び方を確認しておく
8. 心室頻拍で注意が必要なケース
ごくまれに、重い心室頻拍が繰り返し起きる場合や、発作がきっかけで心停止に至るケースもあります。
以下のような場合は特に注意し、主治医の指示に従いましょう。
- 意識を失ったり、けいれんを起こしたことがある
- 家族に突然死や重い心臓病の人がいる
- 基礎疾患として心筋症、手術後、心筋炎などがある
- 心電図や心エコーで心臓の構造的異常が指摘されている
- 抗不整脈薬でも発作が抑えられない場合
9. 予後と経過
心室頻拍の予後は、原因や心臓の健康状態によって大きく変わります。
- 基礎疾患がなく、発作が短時間で自然に止まる場合は比較的良好です
- しかし、心筋症や心筋炎など他の心臓病がある場合、長期的な治療と厳重な経過観察が必要です
- カテーテルアブレーションなどの治療で発作を根治できるケースも増えています
治療や管理が適切に行われれば、学校や社会生活にも復帰できるお子さんが多いです。
10. ご家族へのメッセージ
お子さんが「心室頻拍」と診断されると、初めて聞く病名や、突然の発作、治療の説明に大きな不安や心配を感じるのは当然です。
ですが、現代の医療では多くの治療法があり、重い合併症を未然に防ぎながら、たくさんのお子さんが元気に成長し、学校や社会生活に参加しています。
ご家族は一人で抱え込まず、疑問や不安はどんなことでも医師や看護師、医療スタッフに相談してください。
お子さんの健康と未来のため、ご家族と医療スタッフが力を合わせて見守っていきましょう。
11. まとめ
-
- 心室頻拍は、心臓の下側(心室)から異常に速いリズムが連続して発生する不整脈
- 強い動悸、ぐったり、失神など重い症状が出ることがある
- 発作時は安静、重い場合はすぐに医療機関へ
- 治療は薬やカテーテル治療、必要に応じて機械の植え込みも検討
- ご家族と医療チームが連携して、お子さんの健康を守っていきましょう