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小児の上室頻拍について

―お子さまの「心臓が急に速くなる不整脈」をやさしく解説します―

1. 上室頻拍とは

上室頻拍(じょうしつひんぱく、Supraventricular Tachycardia:SVT)は、心臓が本来のリズムとは別の回路から異常な電気信号が出て、急に「ドキドキ」と非常に速い心拍が連続する不整脈の一種です。

「上室」とは心臓の「心房」やその近くの部分を指し、ここから異常な電気信号が発生するために起こります。
子どもに最も多い不整脈のひとつで、生まれてすぐの赤ちゃんから学童・思春期まで幅広い年齢でみられます。

2. なぜ起こるの?

上室頻拍は、「心臓の電気回路」が普通より少し複雑にできていたり、本来つながっていないはずの場所に“余分な電気の通り道(副伝導路)”があったりすることで発生します。
これは先天的(生まれつき)なもので、多くの場合、ご両親の生活や子育てが原因ではありません。

よくある原因・背景

  • 生まれつき余分な電気の通り道(WPW症候群など)がある
  • 心房細動・心房粗動などの他の不整脈に合併することがある
  • ごくまれに心臓の手術や病気がきっかけになることも

多くの場合、体の成長や自律神経のバランス変化などがきっかけとなって症状が現れます。

3. どんな症状が出るの?

症状は心拍の速さや持続時間、年齢、体調によって異なります。

典型的な症状

  • 突然、心臓が「ドキドキ」と速くなる(1分間に180~250回程度のことも)
  • 「心臓が飛び出しそう」「脈がとても速い」と感じる
  • 赤ちゃんや幼児では、顔色が悪い・ぐったりする・ミルクの飲みが悪い・機嫌が悪い・呼吸が速い、など
  • 年長児や学童では、「動悸」「胸の苦しさ」「息苦しさ」「めまい」などを訴えることが多い

持続時間

  • 数秒から数分で自然におさまることもあれば、30分~数時間続くことも
  • 赤ちゃんはぐったりするだけで訴えがわかりにくいことも多い

その他の症状

  • 強い動悸、胸痛、吐き気、発汗
  • ぐったりする、顔色が青白い、けいれん、失神(非常にまれ、重症例)

4. どうやって診断するの?

多くは症状が現れた時の「心電図検査」で診断されます。

主な診断方法

  • 心電図(ECG)
    頻拍中に心電図を記録すると、特徴的なリズム(連続した速い脈)が確認されます。
    落ち着いている時には異常が見つからないことも多いです。
  • ホルター心電図(24時間心電図)
    小型の心電図装置をつけて1日中記録し、発作の有無や頻度、心拍数などを詳しく調べます。
  • イベントレコーダー
    自宅で動悸が起きた時に心電図を記録できる装置を使うこともあります。
  • 心エコー(心臓超音波検査)
    心臓の形や動き、ほかの心臓病の有無を調べます。
  • 血液検査・胸部レントゲン
    必要に応じて、全身状態や他の病気の有無を確認します。

5. 発作が起きたときの家庭での対応

ご家庭で突然お子さんの脈が速くなった時、あわてずに下記を参考に行動してください。

赤ちゃん・乳幼児の場合

  • 顔色や呼吸状態、元気があるかをよく観察する
  • ミルクの飲みが悪い、ぐったりしている、顔色が悪い場合はすぐ受診
  • 体温を測る、衣服をゆるめるなど基本的なケアを

幼児・学童の場合

  • 動悸が出てきたら、まず安静に座らせ、落ち着かせる
  • 「冷たい水を飲む」「息をこらえる」「いきむ」など迷走神経刺激(ワガルバルサルバ法)を試す
    • 息を吸い込んで止める
    • 鼻をつまんで息をふくらませるようにする
    • 氷を顔に当てる
  • それでも脈が速いままなら早めに医療機関を受診

ぐったりしている、意識がもうろうとしている、けいれんしている場合

  • 迷わず救急車を呼んでください!

6. 病院での治療

症状や発作の頻度、年齢や心臓の状態によって、治療の内容が変わります。

急性発作時の治療

  • 迷走神経刺激(バルサルバ法・冷水刺激)
    • 自宅でも行える、まず最初の対応
  • 薬物治療(抗不整脈薬の点滴)
    • アデノシンやベラパミルなど、速やかに脈を落とす薬が使われます
  • 電気的除細動(カルディオバージョン)
    • ごくまれに、薬で止まらない場合に軽い電気ショックを使うことも

長期的治療

  • 経過観察
    • 発作が年に数回など少ない場合、無治療で経過観察が選ばれることも多いです
  • 薬物治療
    • 発作が頻繁、または長時間続く場合に抗不整脈薬を内服
  • カテーテルアブレーション(カテーテル治療)
    • 異常な電気の通り道を「焼き切る」治療。再発リスクが低く、根治を目指す治療法
    • 小学校高学年以上が目安ですが、重症の場合は低年齢でも検討されます
    • 体への負担は少なく、ほとんどの子が元気に退院できます

7. 上室頻拍の経過と予後

多くの小児の上室頻拍は、成長とともに発作が減ったり、自然に治ることもあります。
薬物治療やカテーテル治療の進歩で、重い合併症が残ることは非常にまれです。

  • 日常生活や運動は、発作がなければ多くの場合制限なく過ごせます
  • 学校や部活動、運動会も主治医と相談しながら行うことができます
  • 治療後も、しばらくは定期的な心電図や診察が必要です

8. 日常生活での注意点とケア

  • 疲れやストレス、睡眠不足を避ける
  • 発作が起きた時の対応を家族で確認しておく
  • 規則正しい生活、バランスのよい食事
  • カフェイン(コーヒー、エナジードリンク、炭酸飲料など)をとりすぎない
  • 主治医と連絡がとれる体制を整えておく

9. ご家族へのメッセージ

お子さんが「上室頻拍」と診断されると、突然の症状や「心臓の病気」と聞いてとても驚き、不安を感じるのは当然のことです。ですが、上室頻拍は子どもの不整脈の中でも比較的多く、現在は治療法も発達しています。多くのお子さんが治療を受けて元気に過ごし、運動や学校生活にも普通に参加できるようになっています。

ご家族が心配しすぎてお子さんの活動を過度に制限する必要はありません。もし疑問や不安があれば、どんな小さなことでも主治医や医療スタッフに相談してください。

ご家族と医療チームが協力して、お子さんの未来を守っていきましょう。

10. まとめ

  • 上室頻拍は、心臓の電気回路の異常で突然脈がとても速くなる不整脈
  • 子どもでもよく見られ、急な動悸やぐったりで気づくことが多い
  • 発作時は安静・迷走神経刺激、重い場合はすぐ受診・救急要請を
  • 多くは成長や治療でコントロール可能。薬やカテーテル治療も進歩
  • ご家族と医療スタッフが力を合わせて、お子さんの元気な成長を見守っていきましょう

 

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