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小児の肺高血圧について

―お子さまの「肺の血圧が高くなる病気」をやさしく解説します―

1. 肺高血圧とは

肺高血圧(はいこうけつあつ、Pulmonary Hypertension)は、心臓から肺に血液を送る「肺動脈(はいどうみゃく)」という血管の血圧が、普通より高くなる状態をいいます。
心臓から肺に送られる血液は、酸素を体に取り込むためのとても大切な働きを担っていますが、この通り道の血管が狭くなったり、固くなったりすることで、心臓や肺に負担がかかってしまう病気です。

2. なぜ起こるの?

肺高血圧は、さまざまな原因で起こります。小児の場合、大きく次のようなタイプがあります。

先天性心疾患が原因の場合

  • 生まれつき心臓や血管に穴が開いている(心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、動脈管開存症など)
  • 血液が異常な経路を通ることで、肺の血管に強い圧力がかかる

肺の病気や慢性疾患が原因の場合

  • 早産や未熟児、慢性的な肺疾患(気管支肺異形成など)
  • 慢性の呼吸障害や肺炎が繰り返されることで起こる

特別な病気が原因の場合

  • 肺動脈自体の異常や、原因不明の「特発性肺高血圧」
  • 免疫の異常、血栓(血のかたまり)、遺伝的な素因など

その他

  • 長期にわたる酸素不足(高地での生活や重症の呼吸障害など)

多くの場合、ご両親の生活や育児のせいではありません。どんな子にも起こりうる病気です。

3. どんな症状が出るの?

肺高血圧は、初期には症状がほとんどないこともあります。
しかし進行すると、次のような症状が現れます。

主な症状

  • 息切れ・呼吸が苦しい
    運動や泣いたとき、あるいは何もしていなくても息が荒くなる
  • 疲れやすい・元気がない
    以前より遊ばなくなった、ぐったりしている
  • 顔色が青白い・チアノーゼ
    唇や指先が青紫色になる
  • 胸の痛み・胸がドキドキする(動悸)
  • めまい、ふらつき、失神
    立ちくらみや突然意識を失うことも
  • 体重がなかなか増えない、ミルクの飲みが悪い(乳児の場合)
  • むくみ
    足や顔がむくんだり、お腹が張ることも

症状の出方

  • 進行が遅いと症状に気付きにくいことも
  • 乳児や小さな子は言葉でうまく訴えられず、「なんとなく元気がない」「ミルクの飲みが悪い」「体重が増えない」で気づかれることも多い

4. どうやって診断するの?

肺高血圧は、いくつかの検査を組み合わせて診断されます。

主な検査

  • 身体診察
    心臓や肺の音を聴いたり、チアノーゼやむくみの有無をみます
  • 心臓超音波検査(心エコー)
    心臓の大きさや動き、血流の状態、肺動脈の圧力を推測できます
  • 胸部レントゲン検査
    心臓や肺の大きさ、形、血管の状態を調べます
  • 心電図
    心臓の電気信号や、心臓に負担がかかっていないかを調べます
  • 心臓カテーテル検査
    • 細い管を血管から心臓や肺動脈まで入れ、血圧や血液の酸素濃度などを直接測定します
    • 最も正確に肺動脈の血圧を測る方法
  • 血液検査、酸素濃度の測定
    貧血や感染症の有無、血液中の酸素量を調べます
  • 肺の機能検査やCT・MRI
    肺の病気や血管の形を詳しく調べることも

5. 肺高血圧の治療法

肺高血圧の治療は、原因や重症度に応じてさまざまな方法が選ばれます。
「早期発見・早期治療」がとても大切です。

原因となる病気の治療

  • 先天性心疾患(心臓に穴があるなど)が原因の場合
    → 手術やカテーテル治療で穴をふさぐ・血流を改善する
  • 肺や気道の病気が原因の場合
    → 酸素療法、呼吸器管理、肺の炎症や感染の治療

肺高血圧そのものへの治療

  • 薬物療法
    • 肺動脈を広げる薬(プロスタサイクリン、ホスホジエステラーゼ阻害薬、エンドセリン受容体拮抗薬など)
    • 利尿薬(むくみを取る)、強心薬(心臓の働きを助ける)
    • 必要に応じて抗凝固薬(血液をさらさらにする薬)
  • 酸素療法
    酸素を吸うことで心臓や体への負担を減らします
  • 外科的治療
    状態によっては肺移植など特殊な治療を検討する場合もあります(極めてまれ)

日常生活の工夫

  • 激しい運動は主治医と相談
  • 疲れやすい時は無理をさせない
  • 栄養や水分バランスに注意する

6. 治療後・経過観察と日常生活

定期的な通院と検査

  • 病状や治療効果をみるために、定期的な心エコーや血液検査が必要です
  • 薬の調整や、副作用の確認、成長発達のチェックも行います

日常生活での注意点

  • 熱が出たときや体調不良時は早めに受診
  • インフルエンザやRSウイルスなどの感染症予防
  • 学校や園での過ごし方・運動の制限は主治医の指示に従う
  • 疲労や脱水にならないよう、こまめな休息・水分補給
  • 予防接種は主治医と相談しながら計画的に

ご家族ができること

  • 日々のお子さんの体調変化をよく観察する
  • いつもと違う様子(息切れ・顔色・元気のなさ・食欲不振など)に気づいたら早めに相談
  • 薬は指示通りきちんと飲ませる
  • 学校や保育園、周囲の大人と情報を共有する

7. 肺高血圧の合併症と予後

肺高血圧は進行すると心臓(特に右心室)に大きな負担がかかり、心不全を起こすことがあります。また、低酸素状態や血栓による合併症にも注意が必要です。

  • 早期治療や定期的な管理で多くの合併症が予防できます
  • 原因となる病気や治療への反応によって経過が異なります
  • 医療の進歩でお子さんが元気に生活できるケースも増えています

8. ご家族へのメッセージ

お子さんが「肺高血圧」と診断されると、初めて聞く病名や治療の説明、今後の生活や将来について不安を感じるのは当然です。
しかし、現代の医療では多くの治療法があり、適切な管理によって元気に成長できる子どもが増えています。

ご家族が一人で悩まず、どんな小さなことでも主治医や看護師、医療スタッフに相談してください。お子さんの体調をよく見守り、無理をさせず、日常生活の中で気になる変化があれば早めに医療機関に相談しましょう。

お子さんの健康と成長を、ご家族と医療スタッフでしっかり支えていきましょう。

9. まとめ

  • 肺高血圧は心臓から肺へ送る血管の血圧が高くなる病気
  • 息切れ・疲れやすさ・チアノーゼ・むくみなどが主な症状
  • 診断は心エコーやカテーテル検査などを組み合わせて行う
  • 原因や重症度に応じて、薬・酸素・手術など多様な治療法がある
  • ご家族と医療チームが協力し、お子さんの体調管理と成長を見守っていくことが大切

 

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