小児の心筋症について
―お子さまの「心臓の筋肉が弱る・固くなる病気」をやさしく解説します―
1. 心筋症とは
心筋症(しんきんしょう)は、心臓の筋肉(心筋)が何らかの理由で正常に働かなくなり、全身に十分な血液を送ることが難しくなる病気です。心臓は体のすみずみに酸素や栄養を届ける大切なポンプの役割をしています。その筋肉が弱くなったり、厚くなったり、固くなったりすることで、心臓のポンプ機能が低下します。
□ 心筋症の種類
小児の心筋症には主に次の3つのタイプがあります。
- 拡張型心筋症(かくちょうがたしんきんしょう)
- 心臓の筋肉が薄くなり、心臓全体が拡がって弱くなる
- 肥大型心筋症(ひだいがたしんきんしょう)
- 心臓の筋肉が異常に厚くなり、心臓の中がせまくなる
- 拘束型心筋症(こうそくがたしんきんしょう)
- 心臓の筋肉が固くなり、拡がりにくくなる
これらのほかにも「不整脈原性右室心筋症」「左室緻密化障害」などのまれなタイプもありますが、ここでは代表的な3つを中心にご説明します。
2. なぜ起こるの?
心筋症は大人でも子どもでも起こりますが、小児の場合は原因がはっきりしないことも多いです。
□ 主な原因
- 遺伝(家族性)
- 両親や兄弟に同じ病気があることも
- ウイルスや細菌など感染症の後
- 心筋炎がきっかけになることも
- 代謝異常(体の中の化学反応の異常)
- 先天的な代謝の病気がある場合
- 全身性の病気や免疫異常
- 薬剤や毒素の影響(ごくまれ)
- 原因不明(特発性)
- ほとんどの小児の心筋症でははっきりとした原因が分かりません
ご両親の生活や育児が直接の原因になることはありません。
3. どんな症状が出るの?
症状は年齢や心筋症のタイプ、進行の早さによって異なります。
初期は気づきにくいことも多く、進行すると徐々に症状が目立ってきます。
□ 主な症状
- 息切れや呼吸が苦しそうになる
- 運動時や泣いたとき、あるいは安静時でも
- すぐ疲れてしまう、遊ばなくなる
- 顔色が悪い・青白くなる(チアノーゼ)
- 食欲不振やミルクの飲みが悪い、体重が増えない(乳幼児)
- むくみ(顔や足、まぶたなどが腫れる)
- 動悸(ドキドキ、胸がバクバクする)
- めまい、ふらつき、失神(意識を失う)
- お腹が張る・肝臓が大きくなる
- おしっこの量が減る
□ 重症の場合
- ぐったりして動かない、元気がなくなる
- 意識がもうろうとする、けいれん
- 血圧が下がる、ショック状態
- 心停止に至ることも
4. どうやって診断するの?
診断には、いくつかの検査を組み合わせて行います。
□ 主な検査
- 問診・診察
症状や家族歴、身体の状態を詳しく調べます - 心臓超音波検査(心エコー)
心臓の大きさ、筋肉の厚さ、ポンプの働き、弁の動き、血流の状態を評価します - 心電図
心臓のリズム(不整脈の有無)や負担のかかり具合を調べます - 胸部レントゲン
心臓や肺の大きさ・形、肺への血流などを確認します - 血液検査
貧血、感染症、代謝異常、心筋のダメージなどを調べます - MRIやCT
心臓の詳細な構造や機能を見ることも - 心筋生検
必要に応じて心臓の組織を一部採取し、病気のタイプや原因を詳しく調べます - 遺伝子検査
家族性や遺伝子異常が疑われる場合に行います
5. 心筋症のタイプと特徴
□ 拡張型心筋症(DCM)
- 心臓の筋肉が薄くなり、心臓の部屋(心室)が広がってしまう
- ポンプ機能が低下し、全身に十分な血液が送れなくなる
- 主に心不全症状(息切れ、むくみ、疲れやすい)が目立つ
□ 肥大型心筋症(HCM)
- 心臓の筋肉が異常に厚くなり、心臓の中がせまくなる
- 血液の流れが悪くなったり、不整脈が出やすくなったりする
- 運動時の失神や突然死のリスクが上がることがある
□ 拘束型心筋症(RCM)
- 心臓の筋肉が固くなり、拡がりにくくなる
- ポンプ機能は保たれていることが多いが、心臓がうまく拡がらず、血液が十分に入らなくなる
- むくみやお腹の張り、肝臓が大きくなるなどの症状が目立つ
6. どんな治療をするの?
心筋症の治療は「完治させる」ことが難しい病気ですが、症状をやわらげ、進行を遅らせ、できるだけ普通の生活ができるようにサポートすることが目標です。
治療内容は症状や進行度、心筋症のタイプによって異なります。
□ 薬物療法
- 心不全治療薬
利尿薬(体の余分な水分を出す)、ACE阻害薬やARB(血管を広げて心臓の負担を減らす)、β遮断薬(心臓の動きを穏やかにする)など - 強心薬
心臓のポンプ機能を助ける - 不整脈治療薬
心臓のリズムの乱れを抑える
□ 生活指導
- 塩分や水分の管理、バランスのよい栄養
- 運動や活動量は主治医と相談しながら無理のない範囲で
- 疲れやすい時は休養を優先する
□ 補助循環・機械治療
- ペースメーカーやICD(植込み型除細動器)
重い不整脈や心停止を予防する - 補助人工心臓(VAD)や心臓移植
重症で通常の治療が効かない場合に検討されます
□ その他
- 基礎疾患(感染症や代謝異常など)があればその治療もあわせて行います
- 心理的サポートやリハビリテーション
本人やご家族の不安を和らげ、社会や学校生活への復帰を目指します
7. 回復後・長期的な経過とフォロー
心筋症は慢性的な病気であり、長期的な通院・検査・治療が必要です。
- 定期的に心エコーや心電図、血液検査を受け、病状の進行や合併症の有無を確認します
- 薬の調整や副作用のチェックも行います
- 体調や症状の変化(息切れ、むくみ、疲れやすさ、動悸など)には早めに対応します
□ 学校や日常生活について
- 主治医と相談しながら、できる範囲で学校生活や運動に参加できます
- 運動会や体育などは、無理せず体調を優先しましょう
- 感染症や発熱時は特に注意し、無理せず安静にすることが大切です
8. ご家族へのメッセージ
お子さんが「心筋症」と診断されると、初めて聞く病名や将来への不安、長期にわたる治療や生活管理に戸惑いを感じることと思います。
しかし、現代の医療では多様な治療法があり、医療スタッフとご家族が力を合わせてサポートすることで、多くのお子さんが元気に成長し、学校生活や社会に参加しています。
心配や疑問は一人で抱えず、主治医や看護師、ソーシャルワーカー、心理士などにもどんどん相談してください。
家族みんなで協力し、無理をせず、お子さんの成長と毎日を一緒に支えていきましょう。
9. まとめ
- 小児の心筋症は、心臓の筋肉が弱くなったり厚くなったり固くなったりする病気
- 症状は息切れ・疲れやすさ・むくみ・動悸など多様
- 診断には心エコー、心電図、血液検査など多様な検査が必要
- 治療は薬や生活管理が中心、重症例では機械や移植も検討
- ご家族と医療スタッフが協力して、お子さんの元気な毎日を見守っていくことが大切