小児の房室中隔欠損症について
―お子さまの心臓の「真ん中の壁と弁」の病気をていねいに解説します―
1. 房室中隔欠損症とは
房室中隔欠損症(AVSD:Atrioventricular Septal Defect)は、赤ちゃんや小児の「先天性心疾患(生まれつきの心臓の病気)」の一つで、心臓の真ん中にある“壁”が十分にできていない、さらに心臓の弁(房室弁)にも異常がある病気です。
心臓は、右心房・右心室・左心房・左心室という4つの部屋でできていて、それぞれの部屋を仕切る「壁(中隔)」と、部屋の間の「扉(弁)」があります。
房室中隔欠損症は、
- 上の部屋(心房)と下の部屋(心室)の両方の壁に穴が開いている
- 心房と心室の間にある弁(房室弁)が一つになっているか、分かれていても形に異常がある
という特徴を持っています。
2. どんなふうに血液が流れるの?
健康な心臓では、
- 全身から帰ってきた酸素の少ない血液が右心房→右心室→肺へ
- 肺で酸素をもらった血液が左心房→左心室→全身へ
というふうに、壁や弁のおかげで右側と左側の血液が混ざらないようになっています。
ところが房室中隔欠損症の場合は、
- 心房と心室の間の壁(中隔)が不完全なため、右側と左側の血液が行き来しやすい
- 弁の異常で血液が逆流したり、流れすぎたりする
といったことが起こり、本来とは異なる複雑な血流になります。
そのため、肺や心臓に余分な血液の負担がかかり、成長や発達に影響が出たり、心臓に大きな負担がかかることになります。
3. 房室中隔欠損症の種類
房室中隔欠損症にはいくつかのタイプがあり、症状や治療方針も少しずつ違います。
■ 完全型(フル型、Complete AVSD)
- 心房中隔と心室中隔の両方に大きな穴がある
- 房室弁がひとつになっている(単一弁)
- 最も重症度が高く、早期の治療が必要
■ 不完全型(部分型、Partial AVSD)
- 主に心房中隔に穴があるが、心室中隔の穴は小さいかない
- 房室弁は2つに分かれているが、形に異常がある
- 症状が軽めで成長とともに治療時期を検討することも
■ 中間型(Intermediate AVSD)
- 上記2つの中間的なタイプ
4. 原因と発生のしくみ
房室中隔欠損症は、お母さんのおなかの中で赤ちゃんが成長する過程で心臓の「中央部の壁」と「弁」が十分に作られなかったために起こります。
多くは偶然に発生しますが、ダウン症(21トリソミー)などの染色体異常を持つお子さんに多く見られます。家族歴がなくても発生することが多いため、ご両親の責任ではありません。
5. どんな症状が現れるの?
房室中隔欠損症の症状は、「穴の大きさ」「弁の異常の程度」「肺や心臓への負担の大きさ」などによって大きく異なります。
□ 小さい穴・軽度の異常の場合
- 症状がほとんどない
- 健診で心雑音を指摘されて発見されることも
□ 大きい穴・重度の異常の場合
- 赤ちゃんがミルクを飲むのに疲れる、飲みが悪い
- 体重が増えない、発育が遅れる
- 息が速い、呼吸が苦しそう
- 汗をかきやすい
- 風邪や肺炎を繰り返す
- 重症化すると心不全(心臓の働きが低下する状態)やチアノーゼ(皮膚や唇が青くなる)が出ることも
6. どうやって見つけるの?
ほとんどの場合、乳児健診や病院での診察時に「心雑音(心臓の異常な音)」を聴診器で指摘され、心臓の超音波検査(心エコー)で確定診断されます。
主な検査
- 心臓超音波検査(心エコー)
心臓の構造や血液の流れ、穴の位置や大きさ、弁の異常を詳しく観察できます。赤ちゃんにも安全で、痛みはありません。 - 胸部レントゲン
心臓や肺の大きさ・状態を確認します。 - 心電図
心臓のリズムや右心房・右心室の負担の有無を調べます。 - 心臓カテーテル検査(必要時)
詳細な血流や圧力測定が必要な場合に行います。
7. 治療方針
房室中隔欠損症の治療は「穴の大きさ」「弁の異常の程度」「症状」「心臓や肺の負担」などによって決まります。
■ 経過観察
- 症状がほとんどない、穴が小さい、弁の逆流が軽い場合は、しばらく経過観察をします。
- 定期的な心エコーで状態をチェックします。
■ 薬物治療
- 心不全の症状がある場合、利尿剤や強心薬などで心臓の負担を和らげます。
- 風邪や肺炎の治療も大切です。
■ 外科手術
- 多くの房室中隔欠損症は、成長や心臓・肺への負担を考えて「乳児期~幼児期早期」に手術を行います。
- 穴をふさぐために、人工パッチや自分の組織を用います。
- 房室弁の修復(形を整える・縫い合わせる・裂け目を閉じる)も同時に行います。
- 人工心肺を用いて心臓を止めて安全に行います。
- 早期手術により、将来の合併症や心不全リスクを減らします。
8. 手術後の経過・日常生活
手術後は集中治療室で経過を観察し、状態が安定すれば一般病棟に戻ります。ほとんどのお子さんは徐々に回復し、普通の生活や成長ができるようになります。
- 食事やミルクがしっかり取れるようになる
- 体重が順調に増え、発育が改善する
- 運動や遊びも無理なく楽しめるようになる
- 退院後も定期的に外来受診や心エコー検査が必要です
9. 長期的な注意点・合併症
房室中隔欠損症は、手術後も長期間にわたって経過観察が必要です。
- 心臓の弁の逆流や狭窄
手術で弁の形を整えても、成長や時間の経過とともに弁の逆流や狭窄が出てくる場合があります。必要に応じて再手術やカテーテル治療が行われます。 - 心不全や肺高血圧症
手術が遅れた場合や、合併症が重い場合は、心臓や肺に負担が残ることも。定期検査が大切です。 - 不整脈
心臓の手術後、不整脈が出ることがあります。症状が出たときはすぐ受診しましょう。 - 感染性心内膜炎の予防
歯科治療やケガの際には、主治医の指示に従い感染予防に注意します。
10. 日常生活で気を付けること
- 退院後は、普通の食事や遊びができます。特に大きな制限はありませんが、体調の変化には敏感に対応しましょう。
- 発熱、息切れ、動悸、むくみ、顔色の変化などがあれば早めに主治医へ相談を。
- 定期的な歯科健診や歯磨きは、感染症予防のためにも大切です。
- 予防接種や学校生活についても、主治医と相談しながら進めてください。
11. ご家族へのメッセージ
房室中隔欠損症と診断されると、たくさんの不安や心配でいっぱいになることでしょう。ですが、現代の医療ではこの病気も適切な時期に治療を受ければ、ほとんどのお子さんが元気に成長できます。
大切なのは、ご家族で前向きに協力し、主治医や看護師、コメディカルスタッフと一緒に情報を共有し、安心して治療・生活を送ることです。日々の変化や心配ごとがあれば、小さなことでも気軽に相談してください。
お子さんの成長とご家族の毎日が笑顔であふれるよう、医療チームが全力でサポートします。