小児の心房細動について
―お子さまの「心臓のリズムがバラバラになる不整脈」をやさしく解説します―
1. 心房細動とは
心房細動(しんぼうさいどう、Atrial Fibrillation:AF)は、心臓の「心房(しんぼう)」という部屋がとても速く、小刻みに、バラバラに動いてしまう状態のことを指します。
本来なら心臓は一定のリズムで「ドックン、ドックン」と動きますが、心房細動ではそのリズムが乱れてしまい、心臓全体の効率のよい拍動が失われます。
【正常な心臓の場合】
- 心房と心室が順番にしっかり動くことで、全身に規則正しく血液が送られる
- 規則的な脈拍(リズム)が保たれている
【心房細動の場合】
- 心房が1分間に300〜600回という非常に速いスピードで「プルプル」と震える
- 脈が速くなったり、遅くなったり、不規則な脈(脈の乱れ)が続く
- 全身への血液の送り出しが不効率になる
2. なぜ起こるの?
心房細動は成人(特に高齢者)で多くみられる不整脈ですが、小児でもごくまれに発症します。
□ 小児での主な原因
- 先天性心疾患(生まれつき心臓の構造に異常がある)
- 心房中隔欠損症や心室中隔欠損症、心臓手術の後遺症など
- 心筋症(心臓の筋肉の病気)
- 心筋炎(ウイルスや免疫の異常による炎症)
- 甲状腺機能亢進症など、ホルモンの病気
- 電解質異常(ナトリウム・カリウムなどのバランス異常)
- 激しい運動や強いストレス、脱水
- 特別な原因がなくても発症することがある(特発性)
ほとんどの場合、ご両親の育児や生活が原因になることはありません。
3. どんな症状が出るの?
心房細動は、症状がある場合と全くない場合があります。
発作的に起こることも、長期間持続することもあります。
□ 主な症状
- 動悸(どうき)
- 「ドキドキ」「バクバク」など、胸が速く不規則に打つ感じ
- 脈がバラバラ、不規則になる
- 胸の違和感、胸痛
- 息苦しさ、息切れ
- 疲れやすい、元気がない
- めまい、ふらつき、失神(意識を失う)
- 重症の場合は、ぐったりする、顔色が悪い、けいれんする
小さなお子さんはうまく症状を伝えられず、「顔色が悪い」「元気がない」「いつもと違う」といった様子で気づくこともあります。
4. どうやって診断するの?
多くは症状が出ているときに「心電図検査」をして診断されます。
□ 主な診断方法
- 心電図(ECG)
- 心房細動特有の「不規則で細かい波形」が見られる
- ホルター心電図(24時間心電図)
- 普段の生活の中で心電図を長時間記録することで、発作の有無や持続時間を調べる
- イベントレコーダー
- 自宅で症状が出たときに心電図を記録できる装置
- 心臓超音波検査(心エコー)
- 心臓の形や動き、他の心臓病の有無を調べる
- 血液検査
- ホルモンや電解質の異常、炎症反応の有無を調べる
- 胸部レントゲンやMRI・CT検査
- 必要に応じて心臓や体の状態を確認
5. 心房細動が起きたときの家庭での対応
□ 症状が軽い場合
- まずは安静にして様子をみましょう。
- 落ち着いて深呼吸をさせる、衣服をゆるめる。
- 体温や顔色、呼吸の様子を観察する。
□ 症状が重い場合
- 顔色が悪い、息苦しそう、ぐったりしている、意識がもうろうとしている、けいれんがある場合はすぐ救急車を呼びましょう。
- 無理に歩かせたり、食事や水を無理にとらせたりしないようにしてください。
6. 病院での治療
心房細動の治療法は、原因や発症年齢、症状の重さ、心臓の状態によって大きく異なります。
□ 急性発作時の治療
- 薬物治療(抗不整脈薬)
- リズムを整える薬を使う(アミオダロン、ジギタリスなど)
- 心拍数を落ち着かせる薬を点滴・内服する
- 電気的除細動(カルディオバージョン)
- 薬でリズムが戻らない場合、軽い電気ショックで正常なリズムに戻す
- 必要に応じて、酸素投与や点滴、心臓モニター管理
□ 長期的な治療
- 原因となる病気の治療(先天性心疾患、心筋症、ホルモンの病気など)
- 薬による心房細動のコントロール
- 抗不整脈薬を定期的に内服
- 抗凝固薬(血をさらさらにする薬)
- 血液の流れが悪くなり血栓(血のかたまり)ができやすいため、必要に応じて使用
- カテーテルアブレーション(カテーテル治療)
- 異常な電気信号の通り道を焼き切る治療。小児でも適応になる場合がある
- 心臓ペースメーカーや植え込み型除細動器(ICD)
- 稀ですが、重い心機能低下や不整脈を繰り返す場合に考慮されます
7. 日常生活で気をつけること
- 十分な休養と睡眠をとる
- ストレスや過労、脱水を避ける
- 発熱や体調不良のときは無理せず休む
- 主治医の許可があれば、通常の学校生活や運動は多くの場合可能
- 激しいスポーツや競技、過度な運動は主治医と相談
- カフェイン(コーヒー、エナジードリンクなど)をとりすぎない
8. 長期的な経過とフォローアップ
心房細動を一度経験したお子さんは、再発や他の心臓病のリスクがあるため、定期的な通院と検査が必要です。
- 心電図や心エコー、血液検査などを定期的に行います
- 血栓(血のかたまり)ができやすいため、脳梗塞や肺塞栓などの合併症にも注意が必要です
- 症状がなくても、発作の有無や体調の変化を家族で共有しましょう
9. ご家族へのメッセージ
お子さんが「心房細動」と診断されると、初めて聞く病名や突然の症状、長期的な経過について不安や戸惑いを感じるのは自然なことです。
しかし、現代の医療ではさまざまな治療法があり、多くのお子さんが日常生活や学校、社会生活を送りながら元気に成長しています。
ご家族が一人で悩まず、疑問や不安なことは医師や看護師、医療スタッフに何でも相談してください。
お子さんの健やかな成長と未来のために、ご家族と医療スタッフが力を合わせてサポートしていきましょう。
10. まとめ
- 心房細動は、心臓の心房がバラバラに速く動いてしまう不整脈
- 小児ではまれだが、先天性心疾患や心筋症、心筋炎などが原因になることが多い
- 症状は動悸、脈の乱れ、息苦しさ、失神など多様
- 治療は薬、電気ショック、カテーテル治療、原因病の治療など
- 定期的な通院と検査、日常生活の工夫が重要
- ご家族と医療スタッフで協力し、お子さんの健康と成長を見守っていきましょう