こんにちは。昭和医科大学病院 小児循環器・成人先天性心疾患センターの矢内俊です。
本日は「心臓病と運動制限」について、分かりやすくご説明いたします。
学校で行われる心臓検診の意義
春になると、小学校・中学校・高校などで健康診断が行われます。身長や体重、尿検査などと並んで、小学1年生・中学1年生・高校1年生では心臓検診も実施されます。
心臓検診では、聴診器による診察や心電図検査が行われますが、これは学校保健安全法に基づくもので、日本独自の非常に珍しい制度です。
この検診は感染症から子どもたちを守るだけでなく、今まで診断されていなかった病気を見つける役割も果たしています。ごくわずかですが、先天性心疾患や心筋症、不整脈などが発見されることがあります。
心臓検診の流れと判定方法
東京都の心臓検診は「3階建て」の構造になっています。
1階部分は学校での診察と心電図です。
心電図や問診票は専門家がまとめて判定し、「精密検査が必要」「経過観察」「問題なし」の3つに分けて管理しています。
問診票で「運動時の息切れ」や「胸の痛み」などがある場合も、症状を重視して注意深く評価します。
2階部分では、精密検査が必要とされた児童・生徒が、レントゲンや心エコー、トレッドミル(負荷心電図)検査などを受けます。
ほとんどの場合、この時点で「問題なし」となりますが、ごく一部の方はさらに大学病院などでの詳細な検査に進みます。
実際に見つかる心臓病とは?
多くの先天性心疾患は、小学校入学前に診断・治療が始まっています。
入学後に新たに見つかる代表的な疾患は心房中隔欠損症ですが、東京都でも年間20人、5000人に1人程度とごくまれです。
診断時に症状がなければ、慌てて治療を始める必要はなく、計画的に治療方針を立てていきます。
他の心疾患も、実際に本格的な管理や運動制限が必要な人はごくわずかです。
精密検査を受けることになったら
精密検査の結果、以下の3つのパターンに分かれます。
- 以後の検査が不要:
小学生なら次の中学入学時、中学生なら高校入学時まで、特別な検査は不要というケースが大半です。 - 定期的な経過観察が必要:
軽度の不整脈(例:心室性期外収縮など)の場合は、年1回の心電図観察など、生活に特別な制限はありません。 - 定期通院・運動制限が必要:
まれに、診断内容によって学校生活管理指導表に基づき、運動部への参加や特定の運動に制限がかかることがあります。不整脈の種類によっては水泳を禁止することもあります。
運動制限と子どもの生活
突然「運動を制限します」と言われて戸惑うご家族も多いですが、全てが一律に制限されるわけではありません。
外来主治医とよく相談し、「できること」「できないこと」をしっかり納得したうえで、本人の希望や生活に合わせたサポートをしていくことが大切です。
検診を受ける意義
「うちの子は元気だから…」と思うかもしれませんが、心臓健診は3年または6年に一度の大切な機会です。
2次検診で多くは「問題なし」となりますが、まれに命に関わる病気が見つかる場合もあり、必ず検診を受けることをおすすめします。
よくあるご質問
- 服の上から聴診しても大丈夫?
心臓の小さな音を聞き分けるには、直接肌に聴診器を当てる必要があります。衣服の擦れる音(衣擦れ音)が邪魔になるため、診察の際は胸を見せる必要はありませんが、ぜひ直接肌に当てて聴診させてください。 - 毎回検診で違うことを言われるのはなぜ?
検診は大切な健康チェックの機会です。結果が同じでも、年齢や成長、状態によって評価が異なることがあります。何もなければ「ラッキー」と捉えてください。
最後に
心臓病と子どもは基本的に結びつきにくいものですが、ごくまれに注意深く見守る必要のあるお子さんがいます。「心配しなくて良い人には心配しなくていい」とお伝えしたいですが、必要な方を見逃さないための制度です。
私たちは、「自分の子どもだったらどう接するか」という気持ちで診療にあたっています。何かご不安やお困りごとがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。