こんにちは。昭和医科大学病院 小児循環器・成人先天性心疾患センターの清水武です。
本日は、「なぜ心臓病や先天性心疾患の方は虫歯に特に注意が必要なのか」についてご説明いたします。
感染性心内膜炎とは?
先天性心疾患のある方が注意すべき病気の一つに、「感染性心内膜炎」があります。これは通常、無菌状態であるはずの血液中に細菌が入り、心臓の弁や血管の内膜に付着・増殖することで起こります。
特に、心臓に構造的な異常(穴が開いている、狭窄があるなど)がある場合、血液の流れが乱れることで細菌が付着しやすくなり、感染のリスクが高まります。
感染性心内膜炎が引き起こす合併症
感染性心内膜炎が発症すると、心臓弁の破壊による逆流や弁の再手術が必要になること、心不全の悪化、さらには細菌の塊が飛んで脳梗塞や膿瘍(うみ)を起こすなど、重篤な合併症を引き起こすことがあります。
人工弁や人工血管などの人工物が入っている方は特に注意が必要です。せっかく治療した部分が再度手術を要することもあり、治ったからといって油断は禁物です。
虫歯と感染性心内膜炎の関係
よく「虫歯があると抜歯のときに注意が必要」と言われますが、これは抜歯などで歯ぐきから出血があると、口の中の細菌が血液中に入りやすくなるためです。口腔内の細菌が感染性心内膜炎の原因となることが多いため、虫歯を放置せず、必要なら積極的に治療を受けてください。
また、歯科治療や扁桃腺摘出など出血を伴う処置の際は、事前に抗菌薬を投与して感染予防を行うことが決まっています。処置前には必ず「心臓の病気がある」「先天性心疾患がある」と歯科や医療従事者に伝えましょう。
どんな時に抗菌薬が必要?
歯科での抜歯や扁桃腺摘出など、出血を伴う処置では抗菌薬の予防投与が必要となりますが、自然に歯が抜ける、鼻血が出る、軽い外傷など自然な出血の場合は、抗菌薬は通常必要ありません。
手術など大きな処置や、人工物が入っている方は特に注意が必要です。
治療の前には必ず担当医に相談し、指示を受けてください。
虫歯予防とスキンケアの大切さ
虫歯や歯周病を未然に防ぐことが最も重要です。
乳幼児期から小児歯科での定期ケアを行い、虫歯のない口腔環境を保ちましょう。
また、皮膚も体を守るバリアです。湿疹やアトピーなどで皮膚が荒れている場合は、そこから細菌が侵入しやすくなるため、気になるときは早めに小児科や皮膚科を受診し、適切なケアを心がけましょう。
感染性心内膜炎のリスク分類と注意事項
先天性心疾患や手術後の方は、その内容や状態によって感染性心内膜炎のリスクが異なります。心室中隔欠損症などの代表的な疾患でもリスクは高いため、「軽い病気だから大丈夫」とは限りません。
詳しいリスクについては、担当医に必ずご相談ください。
医療従事者や他科への伝達も大切
歯科や耳鼻科、皮膚科など他の診療科でも、心臓病・先天性心疾患であることを必ず伝えてください。
知られていなければ、適切な対策が取られない可能性もあります。
また、当院では患者さん向けのリーフレットもご用意しており、ホームページからもダウンロード可能です。
最後に
感染性心内膜炎は、一度発症すると長期入院や再手術が必要になることもあり、再発の可能性もあります。ただし、過度に心配する必要はありません。
「自分は心臓の病気がある」ということを常に伝え、虫歯や皮膚トラブルを放置しないこと、そして気になることは早めに医療機関へ相談することが、健康に過ごすコツです。