小児の心筋炎について
―お子さまの「心臓の筋肉が炎症を起こす病気」をやさしく解説します―
1. 心筋炎とは
心筋炎(しんきんえん)は、「心臓の筋肉(心筋)」が何らかの原因で炎症を起こす病気です。
心臓は全身に血液を送るポンプの役割を果たしており、そのポンプの筋肉が炎症を起こすことで、心臓の働きが弱まったり、リズムが乱れたりします。
【正常な心臓の場合】
- 心筋がしっかりと伸び縮みし、血液を全身に送り出します。
- リズムも規則正しく保たれています。
【心筋炎の場合】
- 心筋が炎症のため傷つき、力強く収縮できなくなります。
- 心臓のリズム(脈拍)が乱れることもあります。
- 重症になると命に関わることもあります。
2. なぜ起こるの?
心筋炎は、さまざまな原因で起こりますが、小児では主にウイルス感染によるものが多いです。
□ 主な原因
- ウイルス感染
- かぜウイルス、エンテロウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルスなど
- 細菌感染、マイコプラズマ、寄生虫感染
- 免疫の異常反応
- 自分の体の免疫が心臓の筋肉を誤って攻撃してしまうことがある
- 薬剤や毒素によるもの(まれ)
ご両親やご家族の生活が直接の原因になることはありません。
3. どんな症状が出るの?
心筋炎の症状は、発症のしかたや重症度、年齢によってさまざまです。
初期は風邪に似た症状から始まることが多いですが、急激に重症化する場合もあります。
□ 主な症状
- 発熱、咳、鼻水などの風邪症状
- 多くは数日から1週間程度、かぜ症状のあとに発症
- ぐったりする、元気がない
- 食欲低下、ミルクの飲みが悪い(乳児の場合)
- 呼吸が速い・苦しそうになる
- 顔色が悪い、唇や手足が青白い(チアノーゼ)
- 息切れや疲れやすい
- 胸の痛みや胸の違和感
- 脈が速い・遅い・不規則になる(不整脈)
- むくみ(顔や足、まぶたが腫れる)
- おしっこの量が減る
□ 重症の場合
- 意識がもうろうとする、ぐったりして動かない
- けいれんや失神を起こす
- 血圧が下がり、ショック状態になることも
- 最悪の場合、心停止に至ることも
4. どうやって診断するの?
心筋炎は初期症状がかぜと似ているため、発見が難しいことがあります。
しかし「いつもと様子が違う」「ぐったりしている」「呼吸が苦しそう」など、ご家族が気づいたときは早めに受診しましょう。
□ 主な検査
- 診察・問診
- 症状や経過、普段との違いを詳しく聞きます
- 胸部レントゲン検査
- 心臓の大きさや肺の状態を調べます
- 心電図
- 心臓のリズムや不整脈の有無、心筋の傷み具合をチェックします
- 心臓超音波検査(心エコー)
- 心臓の動きや心筋の厚さ、心臓のポンプ機能、弁の状態などを調べます
- 血液検査
- 心筋のダメージを示す酵素(CK、トロポニンなど)、炎症反応、ウイルスや細菌の有無を調べます
- 心臓MRIやCT
- 必要に応じて心筋の炎症やむくみ、壊死の範囲を詳しく見ます
- 心筋生検(きんせいけん)
- 極めてまれに、心臓の組織を一部採取して、原因を特定することも
5. どんな治療をするの?
心筋炎の治療は、「安静」と「症状に応じたサポート」が基本です。
多くの場合、入院してしっかり経過観察と治療が必要です。
□ 主な治療内容
- 安静
心臓への負担を減らすため、ベッド上で過ごします - 酸素投与
呼吸が苦しい場合、酸素吸入でサポートします - 点滴・栄養管理
食事や水分がとれない場合は点滴で補います - 心不全治療薬
利尿薬(むくみ・体の水分を減らす)、強心薬(心臓の働きを助ける)、血圧を保つ薬など - 不整脈の治療
脈の乱れがひどい場合は、薬や場合によってはペースメーカーを使います - 呼吸管理(人工呼吸器)
重症の場合は、人工呼吸器で呼吸をサポートすることもあります
□ 原因に対する治療
- ウイルス性心筋炎の場合
ほとんどは自然治癒を待ちながら、症状に合わせて治療 - 細菌感染が疑われる場合
抗生物質を投与します - 免疫の異常が原因の場合
ステロイド(副腎皮質ホルモン)や免疫抑制剤を使うことも
□ 重症例では
- 人工心肺やECMO(体外式膜型人工肺)など、特殊な医療機器で心臓や呼吸をサポートすることがあります
- 心臓移植が必要となることも、ごく稀にあります
6. 回復後と長期的な経過
□ 退院後のフォロー
- 多くの子どもは、数週間から数ヶ月で元気に回復します
- 回復後も、心臓の機能やリズムに異常が残らないか**定期的な検査(心エコー・心電図・血液検査)**が必要です
- 強い運動やスポーツは、主治医と相談して徐々に再開します
□ 後遺症や合併症
- 心筋炎のあと、心臓の機能低下(心不全)や不整脈が残る場合もあります
- ごくまれに、長期的な薬の内服やペースメーカーが必要になることも
7. 日常生活で気をつけること
- 退院後しばらくは、疲れやすさや息切れに注意し、無理のない生活を心がけましょう
- 発熱、風邪症状、ぐったり、息苦しさ、胸の痛みなど、体調の変化があればすぐ受診
- 薬は主治医の指示どおりにきちんと飲む
- 学校や園での体育・運動は主治医と相談してから再開
- 予防接種や健診も、時期や内容を医師とよく相談
8. ご家族へのメッセージ
お子さんが「心筋炎」と診断されると、初めて聞く病名や、急な入院、治療内容に驚きや不安を感じるのは当然です。
ですが、現代の医療では多くの治療法があり、多くの子どもたちがしっかり回復しています。
ご家族が一人で悩まず、どんな小さなことでも医師や看護師、医療スタッフに相談してください。
また、入院中はご家族のサポートや励ましがお子さんの回復の力になります。
お子さんの健康と未来を、ご家族と医療スタッフが一緒に守っていきましょう。
9. まとめ
- 心筋炎は、ウイルスなどが原因で心臓の筋肉に炎症が起こる病気
- 発熱、ぐったり、息切れ、脈の乱れ、むくみなどが主な症状
- 診断には心電図、心エコー、血液検査などが必要
- 治療は安静とサポートが基本。重症例では集中治療が必要なことも
- 回復後も定期的な検査と体調管理が大切
- ご家族と医療スタッフが協力して、お子さんの健やかな成長を見守りましょう