小児の心房粗動について
―お子さまの「心臓のリズムがとても速くなる不整脈」をやさしく解説します―
1. 心房粗動とは
心房粗動(しんぼうそどう、Atrial Flutter)は、心臓の「心房(しんぼう)」という部屋が、非常に速いリズムで規則的に動いてしまう不整脈(ふせいみゃく)の一つです。
本来、心臓は「ペースメーカー」と呼ばれる場所から出る電気信号で、心房→心室の順番にゆっくりと規則正しく動きます。しかし心房粗動では、心房が本来よりもはるかに速いペース(1分間に250~350回程度)で、連続的に「ぐるぐる」と電気信号が回ってしまい、心臓全体のリズムが乱れます。
【正常な心臓の場合】
- 心房と心室がバランスよく規則的に動き、全身に安定して血液を送り出す
【心房粗動の場合】
- 心房が短い周期で何度も動き、心室へ送る信号も速くなり、脈が速くなったり不規則になったりする
- 血液の流れが効率的でなくなり、全身に十分な血液や酸素が送り出されにくくなる
2. なぜ起こるの?
心房粗動は小児では比較的まれな不整脈です。
原因はさまざまですが、次のようなものが挙げられます。
□ 小児での主な原因
- 先天性心疾患(生まれつきの心臓の構造異常)
- 心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、フォンタン手術後など
- 心臓手術のあと
- 手術による傷や瘢痕が「ぐるぐる回る電気信号の回路」になる
- 心筋症や心筋炎(心臓の筋肉の病気や炎症)
- 電解質異常(ナトリウムやカリウムなどのバランス異常)
- 甲状腺の病気など全身の病気
- ごくまれに、特別な病気がなくても発症することもある
ご両親の生活や育児が直接の原因となることはありません。
3. どんな症状が出るの?
心房粗動の症状は、お子さんの年齢や心臓の状態、脈の速さや持続時間によって異なります。
□ 代表的な症状
- 突然の動悸(どうき)
- 「ドキドキ」「バクバク」など、胸がとても速く打つ感じ
- 脈が速い、脈が飛ぶ、不規則になる
- 胸の違和感や胸痛
- 息苦しさ、呼吸が速くなる
- 疲れやすい、元気がなくなる
- めまい、ふらつき、失神(意識を失う)
- ぐったりする、顔色が悪い、けいれんする(重症の場合)
- 乳幼児の場合、ミルクの飲みが悪い・機嫌が悪い・顔色が悪い、など
症状がなくて、たまたま健診や心電図で見つかることもあります。
4. どうやって診断するの?
心房粗動は、症状がある時や健診などで「心電図検査」を行い診断されます。
□ 主な検査
- 心電図(ECG)
- 心房が非常に速く連続して動いている独特な波形(「のこぎり波」など)が見られる
- ホルター心電図(24時間心電図)
- 小型の心電図装置をつけて、普段通りの生活の中で記録することで、発作の有無や頻度を調べる
- イベントレコーダー
- 家で動悸が出た時などに心電図を記録できる機械を使うこともある
- 心臓超音波検査(心エコー)
- 心臓の形や動き、先天性心疾患の有無や心機能低下がないかを調べる
- 血液検査
- 電解質異常や感染、甲状腺など全身の状態を調べる
- 胸部レントゲンやMRI・CT検査
- 必要に応じて心臓や体全体の状態をチェック
5. 心房粗動が起きたときの家庭での対応
□ 症状が軽い場合
- まずは安静にして様子を見ましょう。
- 衣服をゆるめ、深呼吸をさせる、静かに横にならせるなど
- 顔色や呼吸状態、意識や元気があるかをよく観察
□ 症状が重い場合
- 顔色が悪い、呼吸が苦しそう、ぐったりしている、けいれんがある、意識がもうろうとしている場合は、すぐ救急車を呼んでください
- 無理に食べ物や水分を与えたり、歩かせたりしないでください
6. 病院での治療
心房粗動の治療は、発作の頻度や持続時間、症状の重さ、心臓の状態、基礎疾患の有無などで異なります。
□ 急性発作時の治療
- 薬物治療(抗不整脈薬)
- 脈を落ち着かせたり、正常なリズムに戻す薬(アミオダロンなど)を使う
- 電気的除細動(カルディオバージョン)
- 薬で戻らない場合、軽い電気ショックでリズムを正常に戻す
- 必要に応じて点滴や酸素投与、心臓モニター管理
- 基礎疾患(心臓病や全身の病気)の治療も同時に行う
□ 長期的な治療
- 再発予防のための抗不整脈薬の内服
- カテーテルアブレーション(カテーテル治療)
- 心臓の中で「ぐるぐる回る異常な電気信号の回路」をカテーテルで焼き切る
- 小児でも適応になる場合があり、根治(再発防止)を目指せる治療
- 抗凝固薬(血液をさらさらにする薬)
- 血栓(血のかたまり)ができて脳梗塞などのリスクが高い場合に使う
- 基礎疾患の治療や心不全の管理も重要
7. 日常生活での注意点
- 無理のない生活リズム、十分な休養と睡眠
- 発熱や体調不良時は安静にし、無理をしない
- ストレスや過度な運動、脱水を避ける
- 主治医の許可があれば、通常の学校生活や運動は多くの場合可能
- カフェイン(コーヒー、エナジードリンク、炭酸飲料など)をとりすぎない
- 発作時の対応方法や受診のタイミングを家族みんなで共有しておく
8. 長期的な経過とフォローアップ
心房粗動は、再発しやすい不整脈です。
一度経験したお子さんは、定期的な通院や検査(心電図・心エコー・血液検査など)が必要です。
- 治療後も再発や他の不整脈が起きることがある
- 血栓(血のかたまり)ができやすいので、脳梗塞や肺塞栓などの合併症にも注意が必要
- ご家族で日々の体調の変化や症状を記録・共有しましょう
9. ご家族へのメッセージ
お子さんが「心房粗動」と診断されると、初めて聞く病名や治療の説明、今後の生活や再発の可能性に不安や戸惑いを感じるのは当然です。
しかし、現代の医療では効果的な治療法が確立されており、多くのお子さんが日常生活や学校、社会生活を送りながら元気に成長しています。
分からないこと、不安なことはどんな小さなことでも主治医や看護師、医療スタッフに相談してください。ご家族と医療スタッフが力を合わせて、お子さんの健康と未来を守っていきましょう。
10. まとめ
- 心房粗動は、心房が異常に速く動き続ける小児の不整脈のひとつ
- 症状は動悸、脈の乱れ、息苦しさ、失神、ぐったりなど多様
- 治療は薬、電気ショック、カテーテル治療、基礎疾患の治療など
- 定期的な通院と検査、日常生活の工夫が大切
- ご家族と医療スタッフが協力し、お子さんの健やかな成長を見守っていきましょう