心臓カテーテル検査とは?目的・流れ・安全性をやさしく説明します
昭和医科大学病院
小児循環器・成人先天性心疾患センター
矢内 俊
小児の心臓病の診断において「心臓カテーテル検査」は欠かすことのできない重要な検査です。しかし、実際に聞き慣れない言葉である上に、「細い管を体の中に入れるらしい」「全身麻酔が必要と聞いて心配」という保護者の方も多くいらっしゃいます。
近年、心エコーやCT、MRIといった画像検査は大きく進歩しています。それでもなお、カテーテル検査が選ばれるのには理由があります。
この記事では、心臓カテーテル検査の目的、実際の手順、安全性について、できるだけ分かりやすく丁寧に解説します。
■ 心臓カテーテル検査とは?
心臓カテーテル検査とは、細いカテーテル(管)を足の付け根の血管から心臓まで進め、直接心臓の情報を測定する検査です。
主に小児循環器領域では、先天性心疾患の診断・治療方針の決定に欠かせない検査として広く行われています。
「体の中に細い管を入れる」と聞くと不安に感じられますが、小児循環器領域では確立された標準的検査であり、麻酔科や集中治療チームと連携し安全に実施しています。
■ 心臓病の診断はまず“基本検査”から始まる
心臓カテーテル検査を行う前に、多くのお子さんが以下の基本検査を受けます。
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胸部レントゲン
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心電図
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心エコー(超音波検査)
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必要に応じて CT や MRI
レントゲンと心電図は、循環器外来を受診するとほぼ必ず行う基本の検査です。
なかでも心エコーは非常に重要です。小さな子どもの心臓の動きをリアルタイムで細かく描出することができ、診断の多くがエコーでつきます。
適切な診断に結びつけるため、私たちは「誰が見てもどの部位を映しているか分かる」精度の高いエコー撮影を心がけています。
それでもなお、心臓の構造や血流についてエコーだけでは判断が難しい場合に、心臓カテーテル検査を提案することがあります。
■ なぜ心臓カテーテル検査が必要になるのか?
CTやMRIといった画像検査が進歩しても、心臓カテーテル検査でしか得られない情報があります。これは先天性心疾患の評価において特に重要です。
矢内医師が保護者に説明する際、**「カテーテルでしか分からない大切な情報は3つあります」**とお伝えしています。
① 心臓の各部屋の“直接の血圧”が測れる
心臓には4つの部屋があり、各部屋で血圧が異なります。
エコーでも血流速度などから推測はできますが、あくまで“推定値”です。
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心房の圧
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心室の圧
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肺動脈の圧
など、部屋ごとの正確な圧はカテーテル検査でしか測定できません。
特に先天性心疾患では、血圧のわずかな差が治療方針を左右します。
② 各部位の“酸素飽和度”が測定できる
心臓カテーテル検査では、必要に応じて少量の採血を行い、部位ごとの酸素飽和度を測定します。
これは成人の心臓病ではあまり必要のない検査ですが、先天性心疾患の小児では非常に重要です。
例えば、
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心房や心室に穴がある場合
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大血管の狭窄が疑われる場合
には、部位ごとの酸素の違いが診断の大きなヒントになります。
③ 造影剤で“心臓の動きそのもの”を視覚化できる
カテーテルを心臓の中に進め、造影剤(レントゲンで白く映る薬)を流すと、以下が詳細に分かります:
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心臓の拍動の動き
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血液の流れ
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弁に逆流がないか
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大血管の狭窄の有無
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構造的な異常の位置と大きさ
先天性心疾患の根本的な診断・治療計画に欠かせない重要な情報です。
■ 実際にはどのようにカテーテルを入れるのか?
心臓カテーテル検査は、**足の付け根にある「大腿静脈」**から行うことがほとんどです。
● “シース”という器具を使う
まず、血管の中に“シース”と呼ばれる小さな筒を入れます。
シースには弁のような仕組みがあり、血液が外に漏れない構造になっています。
このシースを通じて、細いカテーテルを心臓へ送り込みます。
● カテーテルが心臓に到達した後
カテーテルを心臓に進めると、
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風船を膨らませて血流に乗せる
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心房・心室・肺動脈など順番に進めて測定
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必要に応じて造影剤を注入
といった手順を踏み、血圧や酸素飽和度を計測します。
■ 肺血管抵抗の評価にも不可欠
先天性心疾患の中には、肺の血管が狭くなっている、あるいは血液が流れにくくなっている状態がみられることがあります。
これを肺血管抵抗と呼びます。
肺血管抵抗の値は手術適応や治療計画に深く関わるため、
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各部位の酸素飽和度
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心室や肺動脈の圧
を“正確に測定する”ことが欠かせません。
カテーテル検査は、この肺血管抵抗を評価するためにも非常に重要です。
■ 小児の心臓カテーテル検査は“全身麻酔”が基本
昭和医科大学病院では、小児の心臓カテーテル検査は原則として全身麻酔で行います。
その理由は、
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お子さんが動かない状態で安全に検査を行うため
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痛みや恐怖を感じさせないため
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正確なデータを取得するため
です。
保護者の方が不安に感じる“足の付け根の針の痛み”も、麻酔中のため感じることはありません。
■ 検査後の流れ
検査が無事に終わり、カテーテルとシースを抜いた後、しっかりと止血を行います。
その後、麻酔から覚めてから病棟に戻ります。
疾患によっては、麻酔を継続したまま集中治療室(ICU)で一晩管理することもありますが、多くのお子さんは翌日には普段通り過ごせる状態になります。
■ 心臓カテーテル検査の安全性について
現在の小児循環器領域では、心臓カテーテル検査の安全性は大きく向上しています。
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小児麻酔専門医による全身麻酔管理
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血管への挿入器具(シース)の改良
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カテーテル自体の細径化
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画像装置の精度向上
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ICU との連携体制
これらが整っており、リスク管理を徹底したうえで検査が行われます。
もちろん、全ての医療行為にリスクは存在します。
しかし、**“検査を行うことで得られる情報が、お子さんの治療の安全性を大きく高める”**ため、必要な場合には積極的に検査を提案しています。
■ 心臓カテーテル検査が必要と言われた保護者の方へ
カテーテル検査を提案されると、多くの保護者の方が「本当に必要なのか?」「麻酔が怖い」と感じます。
しかし、心臓カテーテル検査の役割は、お子さんにとってより安全で最適な治療を選択するための“確実な情報”を得ることにあります。
診断が曖昧なまま治療を進めてしまうと、結果的にお子さんへの負担が大きくなることがあります。
カテーテル検査は、そのリスクを最小限に抑えるための大切なステップです。
■ まとめ:心臓カテーテル検査は“治療の精度と安全性を高めるための必須ツール”
心臓カテーテル検査は、先天性心疾患の診断において非常に重要な検査です。
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直接血圧
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酸素飽和度
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造影による構造評価
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肺血管抵抗の測定
いずれもカテーテル検査でしか得られない貴重な情報です。
昭和医科大学病院では、小児循環器医・麻酔科医・集中治療チームが密に連携し、
安全で精度の高い心臓カテーテル検査を提供しています。
お子さんの検査についてご不安がある場合は、どうか遠慮なく担当医にお尋ねください。
一つ一つの疑問に丁寧にお答えしながら、お子さんの心臓の健康を支えてまいります。
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